人喰い蛇に乗って。
村のすぐ側の祠には、大きな人喰い蛇がいた。人喰い蛇はほとんどずっと眠っているが、噴火や地震などの天災が起きると目を覚まし、その被害に乗じて村の人々を喰った。ある者は人喰い蛇が天災を連れてやってくると言い、ある者は天災が人喰い蛇を起こしたと嘆いた。
ある日、勇気ある青年は人喰い蛇を倒そうと決心し、祠へ向かった。人喰い蛇は目が悪いが、感情の機微への反応が非常に鋭いと伝承されていた。そこにある恐怖や怒りから、人間であると判断し襲うらしい。青年はその伝承を信じ、諳んじながら祠へ入っていった。
「私は人間ではない。私は人間ではない。私は人間ではない。私は人間では……」
眠る大蛇を目の前にしても、青年の心は静謐なままであった。青年は大蛇の尾の方からゆっくりと登り、遂には首元まで辿りついた。一思いに鉈を振り下ろしてしまえば、きっと大蛇の首を断ち切れるだろう。しかし、青年は首元に座ったまま、動かなかった。大蛇の上では腹も空かなかったし、喉も乾かなかった。やがて、噴火がおき大蛇が村を襲う時も、青年は首にしがみつくだけだった。
青年は人喰い蛇の一部となり、村人は大蛇を恐れ続けた。