戦場。
愛の唄が戦場にさざめく。両軍の兵糧経路はすでに断絶していた。誰もが生きねばと希求し、目の前の兵士を不乱に撃った。幻覚から、あるいは錯乱から、味方を撃つものもいた。誰が敵で、誰が味方なのかを見定めることは、極限状態ではとても難しいのかもしれない。そんな混沌のただ中で、愛の唄は響いき始めた。
愛の唄を聴いて、兵士達は天使の迎えを想起した。それはレクイエムのような静謐さと、マーチのような祝福さを孕んだ唄だった。最期は何のために闘っていたのかを見失っていたが、暴虐の殺人に与した俺をも神は赦してくださった……兵士は一人、また一人と銃を手放しはじめた。大地に銃が落ちるカランとした音は連鎖し、愛の唄に収斂して行った。しかし、それは決して神の遣いの御業ではなく、一人の少女が成した奇跡だった。
戦場の後には彼女の声が、そして愛に満ちた唄が刻まれている。両国は今も、別の領域を争って戦争をしている。