A ghost is coming.
幽霊が隣で胡座をかいている。
「煙草でも吸ってくれよ」
僕はアメスピの黄色の箱を指で撫でてから、取り出した一本の煙草に恭しく火をつけた。
「あっちには、わかばしかないから気分がいいよ」
幽霊が笑っているのかどうかは分からない。彼(少なくとも声色は男性だった)の表情の周りは厚いもやのようなものが立ち込めていて、その輪郭すらも確認することができなかった。
「さあて、何から話そうか」
僕は生まれてこの方、葬式というものに赴いたことがない。それなりに親しい間柄の人は全員が生者である。あるいは、P波がS波より急いているように、遅れてやってくるみたいに、訃報に先駆けて幽霊がやってきたのかもしれない。しかし、声色には覚えがないし、幽霊として長いような口ぶりだ。
「端的に言うと、君はあと数時間で決断をしなければならない。自分が生きるか、彼を死なすか、を」
幽霊はニヤリと笑った、ような気がした。