ハードボイルド。
夜の歓楽街を一人で歩くことは心地良い。この街には、虚ろな存在しかいないからだ。社会からはぐれ、酒に逃げる。社会とはある人に利益が出れば、ある人は不利益を被るのだ。いわばゼロザムゲームなのだ。貧乏人は酒に使い、金持ちは資産を持つ。そんな社会が良いのか悪いのかはもう俺には分からない。
安い日本酒の一合瓶を片手に、煙草をふかす。俺にはそうすることしか出来ないのだ。この街でそれを咎める人はいない。俺達はそういうタイプの人間なのだ。
店で夜を明かすこともあれば、道端で朝日を浴びることもある。毎日は意味を持たずめくるめく。ただ、意味なんてものはある種の人間にとって不必要なものである。俺は俺であればいい。俺は虚ろな存在であるから、俺が何者なのかはもう分かる由もない。