あめあがり。
サッカーボールを蹴り上げた。最低限の空気は入っていた。反抗期の虹みたいな弧を描いた。ぽしゅんとした音が敷地に響いた。にわか雨の後で、雑草には雫が浮かんでいた。
「どうして僕を蹴るの」
幼気な子供の声を憶えている。怯えきった目を憶えている。
「どうして僕を蹴るの」
サッカーボールの声が聞こえる。間抜けな幽霊みたいな声だった。
「蹴られるのは、痛い?」
「別に痛くはないけどさ、なんかいやなんだ」
僕はもう一度サッカーボールを蹴り上げた。さっきよりも強く、心を込めて蹴り上げた。宇宙には届かなかったけれど、子供の空には届いた気がした。
「いいよ、分かったよ。僕が蹴られればいいんだ」
雨上がりの敷地には、僕以外誰もいなかった。