ボトルメール。
やっぱり、死ぬことにした。死する時、死にたいと思った時にあらゆるしがらみが生まれぬように生きてきた。こうなることは分かっていたのだ。死を深刻なものと思いすぎている節が世の中にはあるが、私はそうと思わない。一人の私が死んだところで地球の自転速度が変わる訳では無いし、北極の氷がいつもより多く溶けてしまう訳でも無い。要するにその程度のことでしかないのだ。
宛先のない遺書を認め、潮騒の傍へ行く。月暈はぼんやりと浮かび、まるで水平線の上で揺れているようだ。私は愛好する中国のビールを片手に、最後の煙草を肺に刻む。こういう時間がずっと続けば生きることも悪くはないと思えるんだけれども、現実はやはりそうは行かない。そういうのに疲弊した私を責めることができる人って、そうそういないと思う。
空き瓶に遺書を詰めて、栓を強く締める。私はそのボトルを漆黒な海に喰らわせた。宛先のないボトルメールは、そのまま化石にでもなればいい。
砂浜でただ、何かを打ち消すかのような潮騒を聴いていた。本当はそれを待ち望んでいたのだけれども。やはり、ボトルメールは返ってきた。つまり、私は生きねばならぬのだ。