雪割り。
暗がりに積雪は映える。しんしんと雪が降りしきる夜は、月が4つあるみたいに明るい。僕は、雪降りの夜には必ず散歩に行く。犬とか馬みたいに、僕も雪という存在が堪らなく好きなのだ。
左手にはウォッカかウイスキーの小瓶。どちらも雪によく合う酒だ。冷えきった五臓六腑に命の水を染み渡らせる。熱が電撃のように全身を伝う。生きていることを実感する瞬間。僕らはしばしば生きているという最も重要な奇跡を忘れてしまうから、こういう時間は大切だ。
吐く息は白いが、雪を溶かしてしまう熱を持っている。俯瞰で見れば同じ色なのに、それは不思議なことだ。世の中に不思議なことはたくさんある。歩いていると、そういうことばかりを考える。これは、ホモ・サピエンスである以上、必要不可欠な営みだ。しかし、道路にはいつも僕一人しかいない。哲学的ゾンビっていうのは、ある意味で本当なのかもしれない。
僕は積もった雪を掴み、瓶に押し込む。耳を澄ませば、雪の溶けるシャオリという音が聴こえる。シャオリ。命の水には、シャオリが一番合う。