雲。
友人の娘は雲が好きなようだった。
「あの雲の目はどこ?」
「さあ、どこだろうね」
「あの雲の鼻はどこ?」
「まんなかくらいじゃないかな」
「じゃあ、あの雲のお口はどこ?」
「さあ、いったいどこだろうね」
友人の娘は『ジャックと豆の木』の傀儡みたいに、上ばかりを見ていた。
「お口はあそこだと思う」
友人の娘が指差した先が、いったいどこなのか僕には見当がつかなかった。
「雲に口は必要ないんじゃないかな」
「ううん、お口は必要だよ」
「言葉を話さないのに?」
「ううん、わたしたちに聞こえないだけ」
「何も食べないのに?」
「ううん、空をぱくぱく食べてるよ」
僕は彼女の瞳を覗いた。そこには、空に浮かぶ雲のどれかが映っていた。
「あのお口にリップを塗りたいな」
「……そろそろ帰ろうか」
「うん」
このような日々は、とんまな雲の流れのようにしばらく続くのだろうか。