木枯らし。

 冬の夜風は冷たい。至極当たり前のことだが、ぬくぬくとした部屋の中で、あるいは毛布にくるまって寒さという厳しい現実を隔つ人が多い真夜中に、一人厚着でゆっくりと散歩に勤しむことはこの上なく気持ちが良い。誰の視線にもとらわれずに、煙草に火を点し、星空を見上げながら煙を吐き出す。かじかむ指で挟む煙草は物憂げで、仄かな火柱は頼りない。息の白さを確かめるように吐き出している内に、大きな溜息が混ざる。あれは北斗七星か。星座を結んでいた古代を生きた人々への郷愁と共に、今届いている光は何万年前に発せられた光なのかという思索に耽る。木枯らしが音をたてて吹く。ヒュルヒュル。ヒュルヒュル。ある冬の夜の一幕。失恋でもしていれば悲劇の主人公を演じられるのだろうけれども、何気ない日常の一部だからやるせない。

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