カプレーゼ・ジャッジ。
「今日は、カプレーゼを作って置いて欲しいんだ」
彼が手料理のオーダーをしてくるのは初めてだったから、私は張り切って準備をした。オリーブオイルはエクストラバージンのものを選び、トマトは綺麗な赤いものを、モッツァレラチーズはスーパーで一番高価なものを選んだ。とっておきの丸皿に、私は渾身のカプレーゼを盛り付けた。
「会うのは、これで最後にしよう」
彼はカプレーゼを一目見た瞬間、そう言い落とした。
「今日は、カプレーゼを作って置いて欲しいんだ」
カプレーゼ? 私がその言葉を聞いて、出来の悪いハンバーガーみたいな料理に思い当たるまでには少し時間がかかった。彼女に作らせる料理としてはいささか珍しい気もするが、彼は好事家なところがあるし、手間はかからなさそうだから別にいいか。私は冷蔵庫の中身を確認して、足りなかったモッツァレラチーズとカジュアルな赤ワインをスーパーで買った。調理(と言っても、切るくらいのものだけれども)の最中に、バジルを買い忘れていたことに気付いて、ほうれん草で代替をした。
「僕と、結婚をしてくれませんか」
彼はカプレーゼを成長期の青年みたいに食べ終えると、私に告白をした。聞けば、ありあいのものでカプレーゼを作れる人が、結婚の条件だったらしい。まったく人の価値観というものは、同じものが一つとしてないほどに多種多様だ。