車窓の周辺。
世界が止まる。走っていた時間も長いし、うっかり駅へ到着したと錯覚してしまいそうな停止だ。しかし、車窓に流れる景色をぼんやりと眺めていた私には、これはそういうタイプの停止ではないと分かっていた。線路は限られているから、こういう停止もたまには仕方がない。
忙しなく時間を切り売りしているサラリーマンは、停止の種類を楽しむ余剰がない。定刻通りのジャパントレインに相応しい、定刻通りのサラリーマン。いつも私の斜向かいの席に律儀に座り、束の間の睡眠を補給している。五度目のブレーキ音は、彼にとっての正確なアラームなのだ。彼は立ち上がり、齷齪とドアへ向かった。
もちろん、ドアは開かない。ドアは駅の正確なポイントの前でしか開くことを許されない定めなのだ。しかし、彼はドアが開くことを信じて疑わなかった。彼の側に立てば、このドアは今まさに開いて然るべきなのだ。
すると、ドアは音を立てて開いた。全くの線路の上、彼は当然のことのように線路に降り立ち、土手を革靴で登っていった。何十年も続くルーティンは、常識なんていともたやすく越えていくのだ。