Tomato Is Vanished.
彼は一日にきっかり8個のトマトを食べた。7個では偏屈なファシストになったし、9個では偏愛なサディストになった。彼は8個のトマトによって、その平穏性を司られていた。
世界からトマトが消えた日があった。それは本当に偶然起こってしまった。ミニトマトもケチャップもサルサソースも、全てのトマトが(あるいはトマトなるものが)消失した。あるいは、侵略を企てた宇宙人がトマト的なものを丁寧に取り除いたかもしれない。トマトが宇宙人にとってなにか不都合である確率と、トマトが偶然に押し並べて消えてしまう確率は、おおよそ同値であるだろうから。
さて、彼が何か事件のようなものを起こしてしまうのか憂慮していたけれども、それは杞憂だった。彼はまっさらな空芯菜のようになってしまった。
「なければないで、どうにかなるものだね」
しかし、彼はトマトで埋めていた空虚を、暴力的な夢想で敷き詰めるようになった。まったく、トマトさえなくならなれば彼は彼らしく生きられただろうに。