熊仮託。
木彫熊が部屋に来てから、僕の生活はとても規則正しくなった。
木彫熊は僕が実際に購入する前から、僕の夢に闖入してきて、僕に箴言をした。
「おい」
木彫熊の声は遠い昔の誰かに似ていた……ふうか? 小学二年生の末に、転校をしてしまったふうかの声だ。
「……ふうか?」
「だから何だ」
15年以上前の、特に思春期の萌芽の兆しも無い時の、感傷がありありと残っていることに僕は驚いた。僕はふうかがいなくなって、初めて寂しさを憶えたんだ。
「……ふうか?」
木彫熊は高笑いをした。
「俺にふうかを仮託するなんて、君はとんだ阿呆だ」
コーヒーメーカーが豆を掘削する音で、僕は目覚める。掛け布団を綺麗に畳んで、歯磨きをして、僕は淹れたてのコーヒーを飲む。その味は、なぜかふうかと結びついている。ふうかと、こんな風にコーヒーを飲みたかったな。木彫熊は、相変わらず僕を見つめている。