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唾棄。

ウイスキーに唾液を垂らすと、自分がウイスキーの一部として溶け込んだような錯覚に陥る。唾液ほど、自分自身を仮託できるものは他に存在しない。初めは簡単に出るのに、数刻も過ぎれば枯れてしまうという縛りもある。幼気な私をウイスキーに溶け込ませることが私の嗜みであり、私の慈愛であった。

昨夜は、特にその欲求が殊更だった。私の瞼は眠りを拒絶して冴え、肝臓は求職を渇望していた。私はサディストでありマゾヒストだ。コップ一杯に自分を溶け込ませないと、昨夜は気が済まなかった。私は水道水を非常用のバケツ一杯に貯め、それにレモン汁の残りを全部混ぜて、ベッドサイドに置いた。ウイスキーはダブルまでと決めていた。私には大量の唾液が必要だった。私は唾液が枯渇するたびに、苦しくなるまでその水分を補給した。それを朝陽が昇るまで繰り返した。しかし、コップから溢れることはなかった。

思うに、コップが大きすぎたのかもしれない。でも、コップがもう少し小さければ、この恍惚はもっと浅はかなものだったのかもしれない。私は気が済むまで寝た。起きたら夕暮れだった。

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