おどろおどろしいもの。
カフェテリアには、人以外にも沢山の来客がある。親離れしたばかりのリス、申し訳なさそうに鱗粉を落とす蛾、仕事をサボりに吹き抜ける風……etc. 種々とした来客を私は楽しみにしているし、そのようにして来た客が人の目をあまり気にしないように、片田舎でひっそりと営んでいる。
しかし、彼が初めて来店した時、私は戸惑わずにはいられなかった。彼は、黄泉から逃げてきた個体(少なくとも、生き物ではなかったから)であったからだ。まるでヘドロと婚約したかのような、おどろおどろしい見た目を前にして、私は何とか平静を装って接客した。
「いらっしゃいませ」
彼はじっと私を見つめ続けた。すると、言葉の輪郭が頭に伝わってきた。彼はずっと休まずに逃げてきたから、アイスコーヒーが飲みたいらしい。私は店で普段出しているこだわりのアイスコーヒーを用意した。
「お待たせいたしました」
彼は口をぱくぱくさせたので、私はストローの先を彼に近付けた。すると、彼は一啜りで飲み干してしまった。彼が魔法みたいに消え去っても、私の脳裏には彼の感謝の言葉が残り続けた。
彼がどうして私のカフェテリアを選んだかは今の今まで分からないけれど、私がこうして103歳になるまで店を経営し続けられているのは、彼のおかげかも知れないね。