絞首。
彼の絞首は、他の誰よりも鬼気迫るものだった。脊椎は刹那的に酸素を希求するが、気道は外圧で塞がれ、ただ悶えることしかできない。神経回路は皮膚から摂取することに切り替えるが、喫緊を要する絶対量には到底及ばない。外圧がなくなった瞬間に全身は弛緩し、激しい呼吸が部屋にしばらくこだました。
「死ななくて、よかったね」
彼は私の皮脂が滲んた手を払い、煙草に火をつけた。脳に供給される酸素はまた不足していて、私の息はまだ上がったままだ。
「俺が殺人者だったら、もう少し続けていたよ」
私は擬態化した快楽を押し留めるに必死だった。全てを曝け出してしまえば、きっと私の方が殺人者になってしまう。
「何よりも怖いのは、本当に殺せてしまうところなんだ」
彼はきっと、殺人者の部分を飼っている。私はたぶん、彼に仮託をしたいのだ。