チューリップ
彼が死んでから、私はチューリップに涙を落とし続けている。彼が何気なくプレゼントしてくれたチューリップの球根。唐突に私を現世に置いて行った彼からのラストギフト。彼を偲ぶ時、私はその球根を託した鉢に涙を落とす。一滴一滴、しるしのように。
球根は私の涙を食べてすくすく育つ。私はだんだん憎らしくなってきた。彼はもう消えてしまったのだ。私と話すことも、私を抱くことも叶わない。それなのに、のこのこと成長するこのチューリップが、まるで私を嘲笑しているようで許しがたかった。ぶっこ抜いてしまおうかとも思ったけれど、美しいチューリップの花弁が開くことが彼への餞である、という気持ちは拭えなかった。私は律儀に毎日涙を落とした。
チューリップは私の健気な気持ちにつけ込み、ついには花を咲かせなかった。咲く直前で止まったのだ。おぞましい蕾は私にこう語りかける。
「おい、お前の俺に対する気持ちはそんなもんだったのか。ここでやめちまうなんて、その程度の想いだったのか。」
彼は悪魔になって、私を掌握する。私は涙を落とし続ける。いや、そうすることしかできないのだ。