孤独なマスター。
煙草が不味くなるくらい人が来ない。経営のノウハウはおさえていたつもりだし、事実十分に暮らしていける売り上げを下回ったことはなかった。しかし、ここ数週間はてんでだめだ。まるでこの世界から人が消えてしまったかのように、人の気配がぱったりと消え去った。
私はカウンターに腰掛け、酒をちびちびと飲む。余りにも時間がゆっくりと流れるからか、煙草の本数もかさむ。店以外で人と接することもないから、私は孤独だった。チェスを指す相手すらもいないのだ。
そのような日々が嘘であったかのように、店には元の活気が戻った。あの空白の期間は、私に何を示唆するものだったのかは分からない。ある種の警告であったのかも知れないし、儀礼的な装いを企図したものなのかも知れない。しかし、私が一介の孤独なマスターであることには変わらないのだ。私は、華やかな日常ですら絵空事であるような、虚妄に苛まれるようになった。