湿気った花火。
物置を掃除していると、線香花火がパラパラと落ちてきた。「懐かしい」そんな感情が僕を押し寄せる。最後に花火に火を点したのはいつだろうか。思えば、もう随分長い間そんなことから遠ざかっていた。齷齪と過ごす毎日が当たり前になっていたのだ。そもそも、この家に戻って来ることさえも久方ぶりだ。時間の経過は残酷な程はやく、僕を追い抜かす日々だった。そのささやかな印として、この線香花火を落としていったのだ。
僕は、ポケットからマッチを取り出した。冬もすっかり深まり、雪がチラチラと舞っている。空気は乾燥していて、きっと点火しやすいはずだ。マッチを擦り、線香花火の先端に翳す。しかし、なかなか火は移らない。何年前かも分からない花火だから、湿気ってしまっていた。僕は諦めかけたけれど、マッチの火が消えてしまうまでは待とうと思った。
刹那、火花が美しく散った。ふとした瞬間に、繋がることだってあるんだ。遠ざかる時間の背中が、笑ってくれたような気がした。