ベクトル。
四方山話。君は今、僕を思っている。
真夜中の道を一人歩いていると、不図君に思い当たった。最後に会ったのは随分前のことだ。3年、いや5年? 少なくとも、閏年を含むくらい前のことだと思う。不図思い当たるには、余りにも都合が良すぎるくらい前だ。
僕は常々、意志にはベクトルが備わっていると考えていた。それは害のない仮説の一つに過ぎないものであったが、あながち悪くはないものであるのかもしれない。検証。僕はSNSに一つ投稿を残してみる。時刻は3時過ぎ。仕事以外で起きているのには、象徴的な時間だ。
案の定、君はすぐ僕の投稿を確認した。仮説、検証。真。なるほど、君は僕に意志のベクトルを向けたのだ。彼女がいかなる状況に置かれて僕を考えていたのかは分からない。思い出に浸ることが必要だったのかも知れないし、夢の悪戯(それは概ね純然たるエラーであることが多い)で僕が浮かび上がって目が覚めたのかも知れない。何であれ、それはとても素敵なことだ。
しかし、アルゴリズムというものの精緻さには目を見張るものがある。僕は迫るアルゴリズムの足音に気を取られて、君の意志を無視してしまった。僕は三ヶ月後君に意志を向けたが、交点は結ばれなかった。