精神の換金。
「チッ、いまいちだから下方修正か。」
トレードに専念してから数ヶ月、自分の中では経験が貯まったと思い専業トレーダーの道を歩み始めたが、市場には魑魅魍魎が蠢いている。世界中の金に飢えた獣たちが、自分より弱い獲物を狙い、骨まで噛み砕く。データ上の数字が増減する度に、アドレナリンが過剰に放出される。
「あああ、損切り。…いや、ショートに入ってみても?」
気軽なモチベーティングとは裏腹に、数字は無慈悲に下落する。
「損切り、いや我慢。損切り、いや我慢。いや損切り?…我慢か?」
月収は周りに比べて高い。旧友からは、不労所得で羨ましいと笑われる。しかし、時間という尺度でトレードを捉えても、矮小化されるだけだ。一秒という単位では大きすぎる程の選択を迫られ、決意という言葉では生ぬるい判断を数え切れないほどくだす。
「駄目だ。今日は終わりにしよう。」
今日の損益はマイナス。この前の運が重なったプラスがあるから…と言い聞かせても、心は休まらない。帳面の損得は関係なく、日々精神を金に換えて闘っているからだ。