輝夫。

輝夫はある種の病であるかのように、美しいカクテルを作ることができた。どれほど安い酒であっても、輝夫がシェーカーを振ればその角が研磨され、芳醇な酒に仕立てあげられた。真っ当な酒を使えば、二度と市販のものが飲めなくなるほどに格別のカクテルを作った。酒は天の美禄と言うが、その成り立ちに帰依しているかと疑うほどに、輝夫のカクテルは儀礼性を帯びていた。

しかし、素晴らしい芸術というものには、須らく欠陥を差し出す必要がある。輝夫のカクテルにも、代償があった。輝夫は、狂おしいほどに情愛を好んだ。客をカクテルで拐かし、夜を共にする。何人もの女性が、輝夫の前で立ち止まり、通り過ぎていった。どれほど保守的な女性でも(それは往々にして目を見張る美貌の持ち主に多かった)、輝夫のカクテルを一口飲んでしまえば抗うことはなかった。輝夫のカクテルは、神から与えられた魔法であり、極めて実存的な媚薬であったのだ。

輝夫は時々、ベッドの上で考える。いつまでこの連環に身を置くのだろうか、と。輝夫は間もなく、四十三を迎えようとしていた。身を固めるとまでは行かなくとも、真っ当に生きたいと考える年齢だ。人を誑かす力に呪われているのは自分の方であるかもしれない、と輝夫は近頃思っている。

しかし、一度手にした魔法を手放せるほど、人間は強くない。それだから輝夫は、明日も明後日も女を抱くのだ。



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