肉体の表象。
自分の肉体に虚ろな何かを感じるようになった。まるで自分自身の存在が虚構であるかのような、肉体の細胞ひとつひとつが漠然としているような感覚に陥った。
鄙暮らしを始めて、人との接点が限りなく減った。食材も生活必需品も、ポストに勝手に入ってくる。俺はただ穢れの少ない空気を肺一杯に吸い込み、ストレスが限りなく少ない生活に羽を伸ばしている。ただ、仮想空間で俺の存在が揺らぐことはない。肉体の在処が変わっても、俺のipアドレスが変更される余地はないのだ。発言も仕事も、仮想空間の俺は律儀にこなしている。俺の肉体が頗る元気になってきても、俺のipアドレスの桁が増えることはない。
俺は、毎日自分自身にしか会うことはない。俺の肉体はひとつの表象でしかない。そう考えるようになった。自分の肉体が虚ろになればなるほど、仮想空間の自分がありありとなる。これはもはや倒錯ではない。これが、本来であったのだ。