ヤマアラシのジレンマ。
ヤマアラシは溜息をついていた。気になった僕は、試しに話しかけてみた。
「やぁ。どうして溜息をついているんだい?」
「はぁ、聞いてくれよ。」
なんと、ヤマアラシは流暢な日本語を話せるのだ。
「君達は、どうしてそう僕達の側ばかり見るんだろう?」
「それは、僕に向かって言っているんだよね?」
「僕と君しかいないのに、君という代名詞が指す方向も分からないのかい?」
ヤマアラシは随分ロジカルに言語を話すみたいだ。
「…確かに、僕の見た目は随分奇抜だと思うよ。身体に針を生やすなんて、君達からみたら随分攻撃的に映るかも知れないさ。ただ、〝ヤマアラシのジレンマ〟だなんて、あんな言い方は酷いじゃないか。あれじゃまるで、僕達が大事な仲間にもブスブス針を刺すみたいだよ。あれは、この上ない名誉毀損だね。」
「…人間の世界では、そういう時には司法の力を借りるんだよ。」
「そんなことは分かっているよ。ただ、費用が随分かさむんだよね。僕のへそくりがあっという間に目減りしちゃったよ。だから溜息をつくほかがなかったのさ。」
ヤマアラシも大変みたいだ。僕は煙草を一本あげることにした。