ライダー。
彼女がバイクに跨る姿を思い出し、僕は死んだ姉を重ねざるを得なかった。
「迎えに行くよ」
彼女は甲斐甲斐しく、僕に気をかけてくれた。
「いいんだよ、もともと走ろうと思っていたから」
僕が深酒をする時遇を彼女は心得ていて、終電を逃すような時は決まって彼女の方から連絡をくれた。
「少年、また飲みすぎているようだな」
彼女はいつも僕に微笑みかけて、ヘルメットを手渡した。彼女が僕のどこに好意のようなものを抱いてくれているのかは分からないが、僕は彼女の嫋やかな襟足が好きだった。飲みすぎてしまった時、二輪の振動は身体に響きそうなものだが、彼女の後ろだとむしろ落ち着いた。
「少年、たまには私を先輩らしく送ってくれてもいいんだよ」
人生には無数のすれ違いがあり、僕と彼女もまたその一つに該当してしまった。しかし、それが僕の在り方を変えてしまうくらいに素敵な思い出であることに疑いの余地はない。今でも時々、僕は彼女の後ろの温度を、雑踏にかき消されまいと大きな声で叫んだ取り留めもない会話の一つ一つを、慈しむように思い出す。そして、僕は彼女に抱いていた好意が、僕から失われた姉の隙間を埋めていたことを思い、いつもため息をついている。