消えた水曜日。
世界中の水曜日が、ある日突然なくなった。忘れてしまった、という方が的確かもしれない。
「ハニー、今日は……何曜日だっけ? 」
「ダーリン、私もちょうどそれを聞こうと思っていたの」
世界中の家で、学校で、あるいは会社で同じような会話がなされたが、そこにいる誰もが二度とは思い出すことが出来なかった。
彼ら彼女らは、大きく混乱した。なんせ、社会は水曜日があることを前提に回っていたのだ。空白の曜日があることに気づく者と、初めからなかったと誤認する者が交錯し、社会は混沌に陥った。歴史が示すように、混沌は戦争を導く。水曜日が失われたことで世界中が諍うことになるなんて、誰が思っていただろう?
上空では、戦闘機が渡り鳥のように隊列を組んで飛んでいる。
「まったく、人っていうのは脆くて、この上なく愚かだね」
結局、文明に行きた人々は皆死んだが、竹林に生きる人は思ったより多かった。しかし、彼らはもちろん子孫など残さず、人類はひっそりと滅亡した。