都会の生態系。

彼女は東京に飲み込まれてしまった。彼女が地元に排出された時、ほとんどの人が彼女を彼女として認識することができなかった。彼女の顔は幾何学的に変造されていたし、服装も攻撃的に変化していた。僕が人の全体を輪郭で捉えるタイプの人間でなかったら、僕もまた彼女であることに気付けなかったであろう。

「東京は酷い場所よ」

彼女はあの頃より掠れた声で呟いた。

「歪な磁場が働いている。東京では、当たり前みたいに人が人でなくなるのよ」

「それをシステマティックだと言う人も、いるからね」

「人が生きているのに、システマティックなんてことがあり得るのかしら?」

「少なくとも、多くの人がそれから目を逸らして生きている」

「あなたは、どう思うの?」

「考えて、遠くから傍観しているよ」

「考えないことよ。私にも、あなたにも、世界の形を変えることはできないもの」

全体の輪郭まで東京に変えられてしまったら、僕にだって気付けない。そういう人が現代にはたくさんいるらしい。僕は活字や映像を通して、それを傍観する。考えないことよ。彼女の言葉より、僕は今日も目を逸らす。


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