樹海。
彩られた樹海。ハロウィンにかこつけて、死体達にはラブホテルの内職みたいなコスプレが施されている。死の匂いは決して消えない。前衛性に逃げても、現実は粛然と現実であろうとする。それが、現実が現実たる所以である。樹海。磁気も乱れ、野性も朽ちていく樹海。
屹立した山合に、月が昇る。これはイメージの世界だ。実際、ここは暗闇で、折角(あるいは、押しつけがましく)の祝祭は虹彩に映らない。光がないのだ。物理法則に反して光を生み出せる神はもちろんいない。だから僕はイメージをしている。
ヘンゼルとグレーテルが落としたパン屑を貪るのが僕の役目だ。月光が差し込まないこの樹海で、よすがたる存在自体を抹消する。それが僕の役目だ。この世界が現実であるために、そのような役目が必要なのだ。樹海。曇り続きの樹海は、苔が繁茂して息苦しい。