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雨そぞろ。

「どうして私達は雨の日にしか会えないの?」

私は雨降りよりも、旅人の外套を脱がせてしまうような日射しが好きだった。

「傘をさせば、顔を隠すことができるから」

キャンバスが黒色を嫌うみたいに、彼は他人からの視線を厭悪していた。

「でも、たまには手を繋いで歩きたいな」

「この後、晴れるといいね」

しかし、彼は俄雨の日を選ぶほど間抜けではなかった。彼が選択するのはきまって厚い雲が屹立しているような時だった。


梅雨前線の到来は、私にとっての福音だ。しかし、私の方から連絡しても返事が来ることは決してない。それは敬虔な戒律であり、犯してはいけないカルマだった。彼は、彼が好む厚い雲みたいに堅牢な傘をさす必要がある日にだけ、私の元を訪れ、通り過ぎてゆくのだ。

私はアスファルトに爆ぜる雨音に耳をすませていた。タイヤに小石が挟まるみたいに、地球の回転もこの雨で乱れてしまえばいいのに。そぞろに過ごしていると、彼から連絡が来る。私は試しに、レインコートを着て外へ繰り出す。

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