裸体。
自分の裸が嫌いだった。自分自身は、特に好きでも嫌いでもない。服さえ着ていれば、鏡を見ても目を逸らしたり卑下したりすることはない。ただ、どうしても自分の裸体だけは直視することができなかった。
そもそも、人間の裸は不格好だ。骨格は霊長類のそれであるのに、不自然に頭髪が被せられている。野生ではとても生きていけないような、頼りないみてくれである。皮膚感も居心地が悪いし、浮き出ている脂も不快だ。とりわけ、自分の裸は虚構の現実が厭なところで混ざり合っていて、想像するだけで胸焼けがする。直視なんて出来るわけがない。
それだから僕はひっそりと生きてきた。しかし、社会的生物としてどうしても成り行きがある。自分の裸を他人の眼前に晒す夜も確かにある。それは、正直言って恥辱に近い。でも、本能は奥底からしゃんと湧き出る。自分がまったくの哺乳類であることを再認識して、やるせなくなる。
少なくとも僕は、衣服を発明した人を崇めることしかできない。裸のまま発展を遂げる世界線を想像するだけで、僕は堪らなく不安になる。