蛇腹の中で。
「あちゃあ。飲み込まれてしまったよ。」
俺は溜息をつく。捕まるまいと1年間一生懸命逃げてきたが、呆気なく飲み込まれてしまった。家族も見捨てて駆け抜けたが、終わりは何ともやるせない。これなら愛した家族を胸に抱いていた方が清純君子を装えただろうに。しかし、現実はやはり俺の性根をありのままに表象したのだ。
蛇腹の中は、思っていたよりも数段心地よいもので、自分が飲み込まれてしまったことが現実の出来事ではないみたいだ。
「あんまり、人がいないんだな。」
「もう随分前に食い切っちまったんだよ。」
蛇はもの寂しそうに、俺を諭した。