バクモドキ。
記憶を食べる獣がいる。見た目はちょうど獏のようで、だいたいクローゼットの隅かベットの下に生息している。
ある日、獣はうっかり転寝をしていたところを、その日記憶を食べた青年に見つかってしまった。青年は、大学で妖怪の研究をしていて、その幻獣を学術的好奇心からすぐに捕らえた。
「やあ、君はもしかしてかの獏かい」
「ごめんなさい、記憶を食べてごめんなさい」
「なんと、君は記憶を食べる亜種なのか」
「ごめんなさい、記憶を食べてごめんなさい」
「どうりで最近物忘れが激しいと思ったよ。大事な論文の締切を忘れた時は、本当に困ったんだよ」
「ごめんなさい、僕には大事な記憶とそうでない記憶の区別がつかないんです」
「記憶を食べてもらっては構わないからさ、何か辻褄のあうものを埋め合わせしてもらうと助かるんだけどね」
「ごめんなさい、これからはそうしようと思います」
記憶を食べる獣は、それから食べた後に適当な埋め合わせをするように心がけた。食べられた人達の記憶は乱れたが、その方が幸せであることがほとんどなのが人の世のおかしな所である。