雨音。
雨音を聴いていた。
「雨は泣かないの?」
彼女は僕の肩に頭を預けながら呟いた。
「雨は、涙の方によく例えられるけどね」
「でも、雨にだって泣きたい時があるはずじゃない」
僕は涙が泣いている所を想像した。
「雨も、泣くだろうさ」
雨音に混じる風が、象牙の笛みたいに響いた。
「あなたは、泣かないの?」
僕は彼女の脳味噌に思いを馳せていた。その中にあるのがシャーベットだろうが羊牧場だろうが、僕は思いを馳せることしかできない。取り出すことも、触れることも叶わない。
「人前では、泣かないようにしているんだ」
「どうして?」
僕は、自分が彼女の前で涙を流しているところを想像した。しかし、彼女の顔はどうしても君に移り変わってしまう。
「なんでだろうね」
雨足は強まっても、二人の間に流れる時間は揺らがなかった。