教室の空白。
「つまり」
彼は律儀な納棺師のように、言葉を慎重に選んで話した。
「君はクラスの全員と寝たんだね?」
「あるいは」
私は気丈に振る舞おうとしたが、やはり声は渇いていた。
「そうかもしれない」
「なるほど」
彼が、珍しい妖怪を見るみたいな視線を浴びせてくれたら、私は気が楽だった。しかし、彼は神父を上手に演じる俳優のように、私を諭す眼差しを向けた。私は、恥部をその眼前に曝しているような心地がした。
「君は、クラスの全員と寝た」
「別に、悪いことではないでしょう?」
彼のペースに乱されてはいけない。
「少なくとも、誰も死んでいない」
「確かに、誰も死んでいない」
厭な間が空く。大人はそういう間を使いこなすから嫌いだ。
「でも、それで傷つく人もいる」
「私だって、傷ついている」
私にだって、なぜビンゴのマスを埋めるみたいに寝てしまったのかは分からない。でも、私が傷ついていたことは確かだ。刃こぼれのしたナイフ。私自身も創を負っているのに、なぜ傷つけたことだけが責められるのだろう?
「意外かも知れないけれど」
彼は、一拍呼吸を置く。最悪なスタッカート。
「僕だって傷ついている」
まったく、こいつは今私と寝ることを考えている。これだから教室という空間は、人を邪にさせるだけなのだ。