幽霊の対話。
酩酊して夜道を駆けている青年がいた。
「ああなったらおしまいだね」
先輩の幽霊は、やれやれと言った様子で呟いた。
「どうしてですか?」
唐突に車に轢かれ、文字通り路頭に迷っていた僕に話しかけてくれたのが先輩だった。
「俺も経験があるんだ。ああいう奴は頭でっかちに世界を捉えて、独りでに生きづらくなっていく」
「僕は生きるので精一杯で、そんな余裕なかったですよ」
先輩は皮肉に頬笑んで見せた。
「それが一番だよ。ああなったら、自ら命を絶つことしかできないから」
僕は先輩の死因を知らなかったから、少し驚いた。先輩はとても気さくで、思い詰めるようなタイプに見えなかったからだ。
「ああなると危ないんだ。俺も飛び降りる瞬間まで、そのことに気付けなかった」
青年は膝に手をついて、発狂している。僕は人生について思い詰めるという経験をしてこなかったから、青年の人生を分けてほしいと思った。僕の人生は、運命に殺されてしまったから。でも、自分がそのような可能性を有していたことに対し、僕は心象を抱かざるをえなかった。