大きな翼。
僕の背中には、大きな翼が生えている。もう少し小さければ収まりがいいのだけれども、自分では選べないものだから仕方がない。多分、僕は天使か悪魔なのだろう。それ以外かもしれないが、僕は人間の身体に翼がついた存在を天使か悪魔しか知らない。それだから、きっと天使か悪魔なのである。
父親と母親は翼をもつ素振りを見せてこなかった。しかし、この大きな翼が突然僕にだけ授けられたとは考えにくい。それだから少なくとも、小さな翼くらいはもっているのだろう。僕は父親と母親の背中を見たことがないから、どこまでも想像の域をでない。でも、僕の大きな翼が生えた背中を見て何も言ってこなかったということは、父親と母親も翼をもっていると考えるのが筋である。
せっかく翼があるのだから、空を飛ぶ練習をしたいと思っている。それだけど、それは余りにも目立つし、失敗して大怪我をしたら病院がパニックになるだろう。僕が天使だったら恭しく看病をされるだろうが、悪魔だったらひっそりと安楽死対応がなされるかもしれない。それだから僕は、毎日この大きな翼をコルセットできつく押さえつけ、人間のふりをして生きている。ひょっとしたら、全員がそうしているのかもしれない。そうだとしたら、堂々と空を飛ぶ練習ができるだろうに。