生き延びた河豚。
今日もこの河豚は、最後の一匹まで生き延びた。生簀に拘束されてから、もう二週間になるというのに。他の河豚はどう足掻いても二日目には捕らえられるものだ。しかしこの河豚は、今日も飄々と泳いでいる。俺は気になったので、ガラス越しに尋ねてみた。
「ねぇ、君はどうして捕えられないんだい? 何か秘訣のようなものはあるのかな? 」
「そうだね、まずやっちゃあいけないことは特別な振る舞いをすることだね」
河豚は水底から、浮遊を始める。
「恐らく君が河豚になったら、自分が不味い河豚だと思い込んで回避しようとするんじゃないかな? 」
「たしかに、死んだふりみたいに」
「それでは、月並みなんだよ。そのような雰囲気は、ある意味職人というものを刺激してしまうんだ」
「なるほど。たしかに的を射ている気がする。それにしても、君は随分人間に詳しいんだね。ここまで流暢に話せるとは思わなかったよ」
「そりゃあ、そうだよ。元々人間だったんだから」
「御伽噺みたいだネ」
「僕に話しかけた時点で、君が御伽噺たらしめたんだよ」
なるほど、世の中はどうもそういう仕組みらしい。