大人になるということ。
何気なく乗った電車。僕はそこでの邂逅に驚くと共に悲しんだ。君が目の前に立っているからだ。
僕は君への想いに対して、古井戸の様に蓋をした記憶がある。僕の中で、君はそこで終わっていた。いや、「終わっていた」というのは僕の主観的かつ自己便宜的な言い訳に過ぎなくて、僕は君をエグザイルしたという他がない。君がパラレルワールドで幸せに過ごしてくれさえすえば、僕はそれで良かったんだ。僕はそれ以上を求めないために、強く強く蓋を閉めたのだ。
だけれども、君はそこにいた。僕が思い描いていた君を忘れさせまいと躍起になっているみたいに。君はそこに立っていた。僕は気を失いそうになった。君は、僕の存在を覚えていた。君の声を聞いた。僕は苦しんだ、
一瞬の恍惚は、その後の絶望の布石だ。僕は、君を文章にすることで救いを求めている。君は君の時間軸で着実に歩を進めている。立ち止まっているのは僕の方だ。君は僕を余所目に、狂おしいほどに美しくなっていく。