知恵を愛すると言うこと。
フィロソフィアとは、知恵を愛するという意味だ。知恵は限りある人生を鮮やかなものにするはずなのだ。だから、僕は哲学に頗る取り組んだ。岩波文庫が整然と並ぶ本棚はちょっとした誇りだ。
しかし、日常的に哲学に取り組むということは少し骨が折れるものだ。死は善なのか悪なのか、生きる意味とは、愛するということは…絶対解のない命題と真摯に対峙し続けると草臥れてしまう。
瀟洒なバーで、ギムレッドを口に含ませながら『死に至る病』を読んでいた。この日は、まだ若い男女がいつもの静寂を乱していた。勿論、僕にどうこういう権利はないのだけれども、やきもきしてしまう。見かねたマスターは、マティーニをサービスしてくれた。
「…ごめんね。今日は週末だから、許してあげてよ。」
「いえいえ、僕には彼らを咎める理由なんてないからね。…楽しそうで何よりだよ。」
「そうだねぇ。あの子達は小難しいことなんて頭にはないんだろうねぇ。」
不図、僕とあの男女のどちらが幸せなのかと思った。