鳶。
鳶が風を捕まえようとしている。風がどこに吹いているのか、どこから吹きはじめているのかが分かっているかのように。かつては一対の腕であった翼を大きくはためかせている。鳶は藻掻かない。ゆっくりと、滑らかにその翼をはためかせている。私が鳶であったら、あれほど悠々と飛ぶことができるのだろうか。翼を懸命にはためかせるばかりで、土埃を立てることしかできないのではないだろうか。私は鳶になったことがないので分からないが、初めて空を掴む瞬間はとても勇気がいることだろう。
空を希うこと。進化の轍に思いを馳せる。陸を目指し、空を目指し、死んでいったものたちがいる。死を顧みず、追随したものたちがいる。私のDNAにもその歴史が刻まれているはずなのに、私にはそのような勇気が見当たらない。私が宿痾たる希望を見つけても、あの鳶のように掴むことができるだろうか。
鳶の鳴き声が私の耳に届いた。気付けば日が落ちている。私は両手を広げて、向かい風を受け止めた。消え入りそうな希望の流れを、私は掴みたいと思っている。