Vivid.
ワインを飲むといつも眠くなる。これは紛うことなき啓示だ。宿命だ。世界はワインを通じで僕に大切なメッセージを発信している。バルの喧騒では聴き逃してしまうかもしれないから、僕はマンション8階の自室で静かにカベルネ・ソヴィニヨンを迎え入れる。
すぐにボトル一本分を飲みきってしまうけど、集中力が足りない。そこにあるべき啓示がないものとして振る舞う……まるでパントマイムの傀儡になったみたいだ。僕はベッドに移り、仰向けになって聴覚に心血を注ぐ。脳のリソースを、耳とその周辺の感覚器官に集める。街の声を聴き、生活の音に浸る。徐々に音響で築かれた構造世界が立ち上がる。304号室の千切りの音、104号室はトークバラエティを観て笑っている。507号室はサービス残業で資料を作っていて、805号室はしゃこしゃこと自慰を……805号室?
まったく、赤ワインは人を欲情させるから駄目だ。僕は射精を済ませてしまうと、そのまま転寝をした。変な夢を見たが、起きた瞬間に忘れてしまった。