離水の波紋。
移動する距離とクリエイティビティは比例するという人もいるから、意識して旅行している。しかし、人生とはグランド・セフト・オートのように進行する、つまり自分の眼に映る世界に応じて広がるものであるため、数多の未踏の地を此の足で踏みしめていくのは何とも心地よい。
あくまで趣向の域を脱さないが、僕は海が好きだ。特に、汽水域が堪らなく好きだ。それは大海に繰り出す勇ましい流れが好きなのかもしれないし、悠然と広がる凪が好きなのかもしれない。いずれにせよ、僕は汽水域が大好きだ。
呉はかつて軍港だった。僕は歴史に想いを馳せて汽水域を眺めていた。海軍兵は、かの戦争の時どのような心持ちでこの穏やかな海を望んでいたのだろう?僕のささやかな郷愁は、突如として羽音に遮られる。渡り鳥が一斉に海原に向かって羽ばたいた。脱兎のごとく、力強い離水だった。
僕は、その波紋に吸い込まれていた。それは歴史の渦かもしれないし、未来への助走かもしれない。