もし、ゴールを選べたとしたら。
レースの後方で、僕は単独走を続けていた。冷気で喉を刺し続けたせいで血の味がするし、脹ら脛は何度もつって上手くスピードに乗れない。そんな時に、神様は突然目の前に現れた。あまりの唐突さに、僕は彼女の存在に驚くいとまもなかった。
「ねぇ、あなたに選択肢をあげる。あたし、そういうの得意なの」
「選択肢? 僕は、なんとしても前に追いつかなければ……」
「ここをゴールにするっていうのはどうかしら? 」
「ここを、ゴールに? 」
「そうすれば、あなたが断トツの1着。めでたし、めでたし。ねぇ、それって素敵じゃない? ほら、今力をあげたわ。あなたが強く思い浮かべた場所が、ゴールになるわ」
「僕は……」
僕は、元々のゴールを強く思った。
「どうして? あなたがあまりに苦しそうだったから、力をあげたのに。どうして、あなたはまだ走ろうとするの? 」
「それは、僕にも分からない。だけど、僕はゴールに向けて走りたいんだ。景色もみたいし、限界を超えてみたい。そのためには、ゴールを変えちゃいけないんだ」
気づいたら、神様は消えていた。宿痾。僕はそう思った。僕がゴールに辿り着いた時、レースが打ち切られている可能性だってあるのだ。けれども、僕はまだ走ろうと思う。遥か先の背中を捉える瞬間を思えば、走りを辞められる訳がないんだもの。