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灯台守。

灯台がさす一筋の光が、降りしきる雪を照らしていた。暗闇。君の輪郭は辛うじて見えるが、ふっと消えてしまっても不思議では無いくらい虚ろな実像だ。吹き込む風は冷たく、マキビシを打ちつけられたみたいに頬が軋んでいる。

「意外と、頼りげがないね」

君は少し残念そうな声色で呟いた。

「あれだけでも、十分なんじゃないかな」

「蜃気楼に飲まれても?」

「灯台守と船頭の、それぞれの力量が試されるだけだよ」

僕は灯台守に思いを馳せていた。仮に灯台の光が消えたとして、灯台守に直すことは果たして出来るのだろうか。数寄者が灯台を襲う天文学的な確率のために、一晩をそこで過ごすことに意味はあるのだろうか。灯台守の責務は、一体どこにあるんだろう?

「あそこ」

君の輪郭を見ると、美しい指が灯台を指していた。灯室の赤らみは、炎に似ていた。

「灯台守が、光を守っているわ」 

「どういうこと?」

君はのっぺらぼうな顔を僕に向け、不思議そうに呟いた。

「光が消えかけたから、灯台守はその身を炎に投げて、光を守ったのよ」

外は相変わらず凍てつくような寒さだった。

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