消えた人面。
「最近さ、顔が見えなくなったと思わない? 」
ライブの直前、ベースは恐る恐る尋ねてきた。僕は、彼の言わんとしていることがよく分からなかった。
「何だって? 」
「ごめん、なんでもないよ」
ライブは頗る上手くいった。
僕達は不気味なくらい順調にステップアップを重ねて、トントン拍子にアリーナ公演が決まった。
公演直前、僕はまだ心に引っかかていたベースの言葉を、確かめたいと思った。しかし、演出上僕だけが板付きで、それは叶わなかった。スポットライトが僕に当たる。満員のアリーナが僕を囲んでいる。
「顔が見えなくなったと思わない? 」
僕を包んでいるファンの顔は、この舞台上から確認できない。僕の中で、何かが満たされてしまった。