シガリロ。
彼は頑なにシガリロしか吸わなかった。
「これは、一つの矜恃だね」
彼は僕にあらゆることを教えてくれた。それは、模倣ではなく踏襲だった。つまり、ある一つの矜恃を持つことが人生には必要だと。彼にとって、それに当たるのがシガリロだった。
「折角なら、シガーにしますか?」
シガーバーでも、彼は人間味を残した菩薩のように不敵な笑みを浮かべた。
「いいや、これがあるからね」
Villigerのケースを小突く音は、僕にスウィングを連想させた。想起ってものは、時々本質を浮かび上がらせることがあるから面白い。
「何がそんなにいいんですか?」
僕は冗談交じりに何度も尋ねた。葉巻ほどの重厚感もなければ、リトルシガーのようなカジュアルさもない。そういうこだわりと買いやすさを折衷すれば、シンプルな紙巻き煙草に落ち着くことは歴史が証明している。
「良いとか悪いとかなんて、俺には分からないさ」
彼は清々しいくらい諦念的だった。それも彼の矜恃だったのかもしれない。
「ただ、妙に馴染むだけさ。それで十分じゃないか」