トラウマ。
ふとした会話の切れ目にやってくるトラウマがある。
僕は教師に恫喝されながら、怒りに震えていた。まだ思春期の最中であった僕は、自分の権利を上手く主張することが出来なかった。教師はつけあがり、怒号を飛ばす自分に酔ってさえいた。僕ができたのは、自分に嘘をつかないことだけだった。あの日の悔しさを今でも憶えている。世の中で、最も抗いがたく人をつけあがらせるのは構造であるのだ。
「…大丈夫?」
隣にいた彼女は僕に声をかける。
「大丈夫。」
僕は自分にもそう言い聞かせる。彼へ対して復讐を目論むことはない。そうしていては、いかなる戦争もなくならない。彼への復讐は、彼を含む構造に組み込まれることを意味するのだ。大丈夫。僕はそう自分に言い聞かせる。