物怪の不幸。
油断。エンジンをかけたまま、コンビニエンスストアに立ち寄っていた。今思えば平和ボケと振り返ざるを得ないが、僕は状況を理解することすらできなかった。あるべきはずの場所に車がない。キョトンと首を傾げる僕は、まるで豆鉄砲を食っている鳩のようであっただろう。
一念発起の一人旅だった。社会に隷属し、身を粉にして働き続けた僕に残ったのは、実態の伴わない預金残高と中古の軽自動車だけだ。現実に向き合うことに疲れた僕は、どうすることも出来なかった。携帯の電源を落とし、宛もなく車を走らせていた。
片田舎。田植えを終えた田園には、太陽が映っている。思わず吹き出した僕を笑う人すらも、ここには居ない。僕は車があるべき場所に寝転んだ。コンビニの店員も、裏で眠っているだろう。誰に咎められる訳でもないのだ。
僕は煙草に火を点す。こうするのって、久しぶりだ。きっとこういう時間を届けたくて、物の怪は車に乗り込んでくれたのだ。