Destiny.
-あなたのマンションの前に居るんだけど
僕はさして驚かなかった。僕は極端な運命論者で、予想だにしない展開でも、現実の尺度で測ればいささか不都合が生じる場面でも、運命として受け入れるきらいがあった。目の前で人が殺されたことも、産まれたこともあった。彼女が遠くの街から、音沙汰もなく到来することだって十二分に有り得る。網目状に情報化された世界だから、僕が住むマンションの所在を突き止めることなんて、月に餅つき兎がいることを調べるくらいに容易であるだろうし。
「久しぶりだね」
彼女は僕が歳を取ったのと同じように(あるいは、いささかそれ以上に)、齢を重ねているようだった。僕の不束な記憶より、髪は随分伸びていて華奢になっていた。
「あなたは、変わらないわね」
「あるいは変わりすぎて、同じ総体として認識せざるをえないのかもしれかい」
「相変わらず、ね」
彼女の微笑む表情には面影があったが、ずいぶん深みが増していた。
「さて、君は何を望んでいるんだい?」
「それが分からないから、ここまでやってきたのよ」
僕はまた彼女と、現実の鎧を纏った種々な問題を乗り越えなければならない。そう、それが運命というものだ。