ロードームービー。
畦道の水面は季節を映す鏡だ。僕はその道を憶えている。市境に跨がる中学校の傍道。時々通る車が、人を大袈裟に避けて真ん中を走る道。僕が何度その道を踏みしめたのかは分からない。多分、本棚に佇む文字の総数と同じくらいだ。その一歩一歩を仔細に思い出すことはもちろんできないけれど、その感触や情動は憶えている。一つ一つのシーンに付随して、その道はありありと蘇る。
自転車を引きながら、君と横並びで歩いたこともあった。缶ビールを片手に、千鳥足で闊歩したこともあった。無味乾燥とした一日をきらい、助けを求めるように走り出したこともあった。アスファルトは僕の感情も吸収しているだろう。
故郷を離れたことで、僕はその道とも決別しなければならなかった。あるいは家を離れることより、それは痛切だったかもしれない。僕は毎日その道に思いを馳せ、その道の上で催された思い出を反芻している。ロードムービー。いつも風が吹いていたのに、不思議とイメージはいつも静かだ。